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顔を首筋に埋めて、するりと唇を這わせる。熱の吐息が肌をなぞり、そのまま耳朶へと辿り着く。
怒気と艶やかさの混ざる声が直接震わせ、滑り込んだ。甘い香りが思考をかき乱していく。
「きみは俺には勝てない。抵抗できない、服を切り裂かれ、暴かれ、めちゃくちゃにされてもどうにも出来ない」
彼の足が月音の足の間に割り込む。スカートが捲れ上がり、真っ白の太腿が露わになったところで、月音はようやく気がついた。いや、理由はわからないが彼は怒っている。
だが、奥にひそませているのは。
「……ごめんなさい」
「何を謝る? やめてほしくて?」
「配慮に欠けた行動でした」
「ふぅん、それで」
「私は世話してもらった側なので、文句言う立場ではない。と、恥を捨ててました。それに泰華さんなら良いと」
ぴたり、と泰華が止まる。重苦しい沈黙が流れた。
少々の嘘をまぜる。感謝こそすれ怒りもなければ、羞恥すらわかない。元よりそういった感情とは縁遠い、非常事態だったのだ。
泰華に関しても、保護して好きだと恋慕を抱いた女を襲うなど軽率で愚かなことはしなさそうだ。嫌われて逃げたられるほうが面倒なはず。
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