17.それはまるで甘露のような

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17.それはまるで甘露のような

 施設を出て平穏な日々が続く。祖父母が殺されてから命の危機に迫られる状況だったのが嘘のようだ。  泰華について未だ不明瞭な部分が目立つが、悪意があるようには感じ取れない。過保護に接して食事を用意する、甲斐甲斐しく月音の世話を焼く。嫌な顔どころか幸せそうな顔をして。  そんな彼に絆されないかと言われれば、認めたくないが徐々に変化が生まれていた。 「月音、ごはんを食べようか」 「……お手伝いできず、すみません」 「気にしないでくれ。俺がしたいからしてるんだから」  肉体的にも精神的にも崩壊寸前だった月音にとって、このぬるま湯のような安心する場所を与えられるのは大きな意味を持つ。  当然、彼の素性には疑念を抱かずにはいられないのだが、それでも。  月音より遅く寝て、早く起きる泰華が食事を作り待っている。出会ってしばらく、日中はいないものの、寝食を共にして二週間も経てば、瞳の奥に見え隠れする敬意と微かな心配に気付かないはずもない。  毎度装飾が凝ったケーキやらクッキーなどを土産に買ってくるものだから、ある日二人で向き合ってフォークを手に「甘味が好きなんですか?」と問いかけた。
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