17.それはまるで甘露のような

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 すると彼は苦い笑顔をすると「実は得意じゃない」と答えた。  毎度一緒に食べていたから、当然好みなのだと疑っていなかった月音は驚きあまり、ぽかんと口を開けた。  呆れたと勘違いしたのか、彼は少しだけ拗ねたように目線を逸らして女性には甘いのを好むだろう、とだけ呟く。  どうやら月音が食事に興味がないと知ってから、色々与えて探っていたらしい。それで、一番反応が良かった芸術作品のように美しいケーキを基準に買ってきたと。  その姿があまりにも可愛らしく見えて、器用なのに変なところで不器用なのだと、月音はひっそりと笑った。  ――現実逃避を、したかったのかもしれない。  根掘り葉掘り聞いてくる男ではない。  だからこそ月音は彼という人間について問いかけにくかった。どこまで聞いていいのか不明瞭で、人付き合いが苦手だと自負する身としては、扱いづらい。  そんな月音を哀れんだのか、もしかしたら別の理由があるのか。  彼はいつの間にか、彼自身の話をほんのすこしづつ、教えてくれた。  泰華が実は辛いものが好きだとか、犬や猫など小さい動物が苦手。ショートスリーパーだと知った。
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