18.色彩

1/4
前へ
/239ページ
次へ

18.色彩

「独りは、寂しいだろう」  十九時。  用意された時計が規則正しく刻む音と、和風ハンバーグを食べれば食器がたてる音にまざったそれは、いつになく寂しげな声音だった。  月音はナイフとフォークを皿の上に重ねて、首を傾げる。唐突だったゆえ、意味を理解するのに数秒かかる。  ゆっくり咀嚼してから、目を伏せて首を振る。    ずきりと痛む胸を無視した。 「寂しくないです」  独りで生きるしかない。  だからこの生活も、一時の休息でありいつか失われるものだ。  冷えた水が、心に注ぎ込まれるような変な気分だった。  泰華、そんな月音とものが増えた部屋を見比べて、何かを納得したかのように一つ頷くとハンバーグを一口食べた。  それを眺めて月音は、自分の分であるミニトマトを放り込む。歯を押し当てれば、潰れて、はじけた。  夢から覚めたような感覚だった。  宝箱がみしみしと軋んで壊れていくのが、聞こえた気がする。  変わらず取り決めは行われた。  行ってらっしゃいと見送り、ベッドに横たわる。  本を読むのもテレビを見るのも気力が沸かず、ただ無意味な時間をぼーとして過ごした。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加