19.月の小さな宝箱

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19.月の小さな宝箱

 花の寿命はどれくらいなのだろうか。  翌日、行ってらっしゃいと見送った後。月音はソファに座り、読んでいた本から顔を上げた。  ローテーブルでは目を奪う薔薇が咲き誇っている。朝日を浴びて、香りと生命の輝きを放つのが眩しくて月音は、感嘆の声をこぼした。  いつまでも眺めていたくて、枯れない方法を探し求めた。当然、生命に終わりは来るので、結果見つからずに寿命を延ばすぐらいしか思いつかなかった。  ふるりと首を振って、立ち上がる。窓辺に近づけば青い晴天が永遠と続いている。遮るものが少なく町を一望できる。夜とは違い平和が広がっている。見てくれだけは。  日光に当てるとよくないらしい。場所を移動させてカーテンも閉じた方がいいだろう。  そっと手を伸ばして。  ふと。何気なく目線が下へと向いた。遙か遠い外の地面、人々が行き交う日常にぽつりと違和感が立っていた。  表情は認識できない。  黒いスーツを身に纏い、マンション入り口で、じっと地に根を下ろしていた。まるで死霊のように、周りの人間から浮き、流れに逆らう姿が不気味で目が離せなくなる。  性別だけでも分からないか、目を凝らして。 「――ッ!」
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