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ぐるんと上を向く顔、がらんどうな目と合った気がした。そのまま、人間の腕が持ち上がりこちらを指す。
ぞくりと恐怖がせり上がり、後ずさる。ぺたんと座り込み急いでカーテンを閉めた。
どくどくと早鐘を打つ心臓を服の上から掴むように手を置く。
目の色どころか表情も読めないのにあり得ない。だというのに、あの人間は月音を見た、そう確信した。
マンションのセキュリティのおかげで、月音の元にはこられない。
なのに人間がすぐそばまで迫ってくるような、形容しがたい恐ろしさに支配されて身動きがとれない。
ずるりと、奥底に眠っていた凶暴な考えが這い寄る。
もし、あれが自分を狙う人間ならば。それならば。
「……おち、つけ」
――短絡的だ。ただの被害妄想だ。
そう自分自身に言い聞かせるように否定を繰り返す。乱れた呼吸を整えて、のろのろと立ち上がった。
薔薇を持ち上げて、日陰へと移動させる。
脳裏に焼き付いた光景を振り払うように、ソファに勢いよく飛び込み、身体を預ける。クッションに顔を埋めて瞼を下ろした。
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