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遠かったので気のせいかもしれない、と付け加えたのを最後まで聞いた泰華は一拍置いてから、懐に手を入れた。
ばちりと電撃が走るように思い出したのは出会った日、上着から出てきた拳銃。まさか、と怯えた、が。
「その人間については、調べておく。気休めにもならないだろうが、これを」
月音の手に、ぽんと置いたのは長方形の物体。
携帯電話であった。背が赤い色で薔薇のキーホルダーがついてある。泰華の使っているものは別ものだ。
「一人にしてすまない。もしこれから困ったことや、怖かったら気兼ねなく連絡してくれ」
ぎゅうと抱きしめられて、月音の顔は身体に押しつけられた。
欠けていた何かが埋まり、宝箱が元に戻る。
それだけで安心感と幸福感に満たされて、ほっと息をついた。無意識で彼の背に手を回し、服を掴んでいた。
しわがよる、それでも離す気にはなれず、固く握りしめる。
縋りつくように、自らすり寄った。
彼の柔らかな黒髪が肩からこぼれて、頬をかすめる。
もう覚えた彼の香りに、顔を上げた。
「すみません、ご迷惑を」
「迷惑じゃないさ。それに、きみに頼られるのは嬉しい」
嘘ではないのだろう。
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