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3.華は美しく
艶やかな色を含んで、ちょい、と細い指を曲げる。糸を引っ張るような動作は、月音を呼んでいるらしい。
品のある態度、口調が強引に月音の気を引き付ける。応えねばと思わせる堂々たる風格に抗えないでいた。
逡巡の後、月音は捻挫した足を引きずって男のそばによる。数歩進み、すぐ横に突っ立ち、やはりと頷いた。
「そちらこそ、大丈夫なんですか」
心配からではない。探る質問に男は唇に指をそえて、くすくすと上品に笑った。「大丈夫ではないな」けろりとした語調だ。
しかし。
月音は視線を巡らす。男の座る場所から、薔薇よりも濃い色が広がり模様を描いていた。それはどんどん大きくなり、この瞬間も流れ続けているのだと容易に察した。
黒のスーツだからわかりにくいが、おそらく月音と同じかそれ以上の重傷を負っている。これだけの出血で微笑むなど、正常とは思えない。
それに――首筋から除く、血液のような色で咲く花。
鮮やかな花に月音は、ひっそりと深呼吸をする。
雨音がうるさい、神経を尖らせて見定めるために男を注意深く観察した。
もし、この人間が、あいつらの味方ならば。
「きみのナイフか、それは」
表情ひとつ変えず、目線で示す。月音はぴくりと肩を揺らしてから、無言で握る力を強めた。指先が白くなるほど、馴染ませる。
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