19.月の小さな宝箱

6/7
前へ
/239ページ
次へ
 いつの間にか温度が戻った瞳は、とろけて月音を捉えた。蜜を纏った熱が流れ込んで、月音の体温が上がっていく。    甘さで溺れて窒息しそうだ。  くらくらと目眩がする月音を動かし、泰華は後ろから抱きしめ、包み込むようにソファへ座った。  顎を月音の肩に置いて、頬同士をくっつける。  いつになく密着するので顔が紅潮する。  恥ずかしさに身じろぎすれば、どこか楽しげな声が転がった。上機嫌らしい。  今日はやけに嬉しそうである。心なしから彼の体温も、頬も熱い気がする。 「携帯電話の使いかたは分かるか?」 「いえ、まったく」  未知なそれ。  下手にいじって壊さないか不安がつのる。そもそも高級品だろうに貰っていいのかすら疑問である。 「なら、簡単に説明しようか」 「とりあえず離れませんか」 「えっいやだ」  何を言っているのだ、と心外そうに腹に回された腕に力が込められる。ぐぇ、呻いたが彼は緩めない。  空いた手のほうで、すいすいと携帯電話を操作しつつ説明していった。耳元で話すのでくすぐったくて仕方ない。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加