20.月は華にいだかれて

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20.月は華にいだかれて

 どこか堅い声音が、いやに響いた。  いつの間にかスピーカーにされている。月音は混乱して目が回って、満足に喋れなくなっていた。後ろで僅かに揺れる彼は愉悦に浸っているらしく、黙っていた。  愉快犯により、相手の警戒が強まる。電話越しでも、誠司の空気が変わったのがわかった。 「おい、テメェ聞いてんのか」  唸り声に月音はびくりと肩を揺らした。指先まで凍って思考すらまともに働かない。  刺し殺すような気配に圧倒された月音に、泰華はようやく口を開いた。 「俺だよ、誠司」 「……はぁ、何だよ。警戒して損した」  一瞬にして霧散した警戒、呆れたように息を吐いた誠司が不満げに呟く。  安堵も含まれており、泰華は心なしか嬉しそうに笑った。月音の髪を一房つまみ、くるりと指に巻き付けて手持ち無沙汰にもてあそぶ。 「俺からの電話だって分かってただろう」 「いや、緊急事態用の携帯電話からだったから、何かあったと思うだろ」 「あ、そうそう。この電話は月音にあげたから」 「は?」 「登録してある番号は俺とお前。月音から連絡あったら、彼女の手助けしてくれ」 「はぁあ?」  信じられない。
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