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驚愕をにじませた抗議にも泰華の態度は変わらない。よりいっそう楽しげに喉をくつくつと鳴らした。その凶悪な音色、やはり嗜虐心が強いのだろう。
月音は肩身の狭い思いで、身を縮こまらせた。
ぎゃいぎゃいと騒ぐのを、のらりくらりと泰華は躱す。不思議な会話はやがて、誠司の重たいため息で収束した。
「……あー」
気まずそうな沈黙から、言葉を口の中で転がすように口ごもる。
月音から相手の出方を窺い、注意深く耳を澄ました。変に騒がしい心臓を押さえつけて、集中する。
誠司も、月音の緊張を感じ取ったらしい。泰華と話すときとは違い、ずいぶんと柔らかい気遣いにあふれた声音で空気をふるわせた。
「泰華は、性格悪い上にうさんくさいだろうし。あいつに言いにくいことがあったら、僕を頼って。最低限、助けるから」
「あ、ありがとうございます」
ぎゅうとワンピースの裾を握って、心細さを誤魔化した。返事はずいぶんと頼りなさげで、気の利かない響きだ。
自己嫌悪に陥る寸前で、泰華が引っ張りあげるように手を重ねた。
大きな手が、月音のそれを包み、指を絡める。
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