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ぬくもりが分け与えられ、心が守られていく。いつの間にか張り詰めた息をゆっくり吐き出した。
「要件は、それだけ。後でまた連絡する」
「わかった」
短い応答。すぐさま切られた電話をテーブルの上に置くと、泰華は月音の頭に手を添え、抱えるように抱きしめた。
胸に押し当てられ、彼の心音が微かに聞こえる。規則正しく、落ち着かせてくれた。自分の鼓動と重ねて、音楽を楽しむように身を委ねる。
ふわりと彼の甘い香りと共に、朝に目撃した黒い人間がかすんでいく。気にしすぎなのだと、嫌な予感を否定できた。
「大丈夫。その命、必ず守る。何があっても」
迷いなど一切ない。
どこまでも真っ直ぐで、真摯な言葉に月音は頷いた。
彼のそばは、安心する。
香りに誘われた睡魔がもたげる。あくびがこぼれれば、泰華が優しく囁いた。
「今日一日、神経が張り詰めて疲れたんだろう。少し眠るといい。起きたら一緒にごはんを食べよう」
とんとん、幼子にするように背中をゆったりと叩かれる。抗う理由もない、月音は既にまどろみに、拙くなった言葉で「ありがとう」とだけ伝えて、重たい瞼を下ろした。
ゆらゆらと心地よい夢へと意識を委ねた。
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