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ぐっと目を閉じる。一人が当然だったはずなのに、泰華が消えた部屋は寒くて凍り付きそうだ。
無意識に影を探して求めてしまう。
ぬくもりが欲しくて耐えられなくなる。
弱く、なってしまった。
縋る先を見つけようと視線をのろのろと彷徨わせた。小説も風景写真集も、今の月音には何の役にも立たないだろう。
そっと追い立てられるように扉を開けば、整理整頓されて汚れが一切ないキッチンがある。
「いつも通り、テーブルにお昼ご飯用意したからな」と泰華が言ったとおり、桜色の袋に包まれたお弁当が置いてあった。
まだ朝の九時だが月音の手は勝手に伸びて開けていた。
包みと同じ色のお弁当箱の蓋をとれば、可愛らしい大きさの俵型に整えられたおにぎり二つに色とりどりのおかず。
黄色のふっくらとした玉子焼きに月音は目を細める。
母の話から、彼は必ず玉子焼きを添えてくれている。味は違う、美味しいとも言わない月音に飽きも、怒りもせず当然と差し出してくれる。
繊細な優しさを噛み締めて、再び蓋を閉めた。
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