3.華は美しく

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「似合うな」 「……ずいぶんと、変わった感性ですね」 「そうか?」 「アクセサリーでもない、凶器が似合うと言うなんて、普通の女性なら引いてますよ」 「そうだな。だが、きみは普通の女性ではないだろう。そもそも、この町に普通な人間はいない。まともなやつなら、別の場所に住む」  その通りだ。ここは――壊れたやつが闊歩する羽無(はな)(まち)。正しさを説く者が、さじを投げた壊れた町。警察も行き届かない。    羽無(はな)、という綺麗な名前で覆い隠した闇夜と混沌が支配する場所。 「なぁお嬢さん。取り引きをしないか」  男が芝居がかった動作で手を差し出す。助けを求めているようで、ダンスに誘うかのように優雅に。 「お互い、怪我で身動きがとれない。その上、俺には追っ手がいる。きみもだろう?」  遠くの方から、月音を探す怒号が聞こえる。  おそらく諦める気は毛頭ないだろう。月音の体力は既に限界を迎えている。見つかるのも時間の問題だ。 「俺も頼れる人間と連絡がつかなくてな。追われてる身としては、きみと手を組みたい」 「ただの子供に、過度な期待をしていますね」 「ただの子供だからこそ、だ」 「取り引き、とは」 「簡単だ。俺の家まで運んで欲しい。そこなら追っ手からきみを隠すことも可能だ」  月音は帰る家がない。  施設から逃げ出した身としては、一時的に避難場所を与えられるのは助かる。カタギではない男からも、施設の人間からも逃げなくてはならないのだ。   だが、しかし。  あまりに出来すぎており、罠ではと疑う。  都合がよすぎるのだ。  彼の血を睨めつけたが、それが本物かどうかは月音では判断がつかない。雨でも流せない金気臭さが辺りを覆っているが、月音のものかがわからない。  しばしの沈黙。答えは出ない。いっそ疑わしきは罰するのは。手のナイフが濡れて光り、月音の視界に入った。
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