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「似合うな」
「……ずいぶんと、変わった感性ですね」
「そうか?」
「アクセサリーでもない、凶器が似合うと言うなんて、普通の女性なら引いてますよ」
「そうだな。だが、きみは普通の女性ではないだろう。そもそも、この町に普通な人間はいない。まともなやつなら、別の場所に住む」
その通りだ。ここは――壊れたやつが闊歩する羽無町。正しさを説く者が、さじを投げた壊れた町。警察も行き届かない。
羽無、という綺麗な名前で覆い隠した闇夜と混沌が支配する場所。
「なぁお嬢さん。取り引きをしないか」
男が芝居がかった動作で手を差し出す。助けを求めているようで、ダンスに誘うかのように優雅に。
「お互い、怪我で身動きがとれない。その上、俺には追っ手がいる。きみもだろう?」
遠くの方から、月音を探す怒号が聞こえる。
おそらく諦める気は毛頭ないだろう。月音の体力は既に限界を迎えている。見つかるのも時間の問題だ。
「俺も頼れる人間と連絡がつかなくてな。追われてる身としては、きみと手を組みたい」
「ただの子供に、過度な期待をしていますね」
「ただの子供だからこそ、だ」
「取り引き、とは」
「簡単だ。俺の家まで運んで欲しい。そこなら追っ手からきみを隠すことも可能だ」
月音は帰る家がない。
施設から逃げ出した身としては、一時的に避難場所を与えられるのは助かる。カタギではない男からも、施設の人間からも逃げなくてはならないのだ。
だが、しかし。
あまりに出来すぎており、罠ではと疑う。
都合がよすぎるのだ。
彼の血を睨めつけたが、それが本物かどうかは月音では判断がつかない。雨でも流せない金気臭さが辺りを覆っているが、月音のものかがわからない。
しばしの沈黙。答えは出ない。いっそ疑わしきは罰するのは。手のナイフが濡れて光り、月音の視界に入った。
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