80人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
が、それを上回る自分の腕前。不器用さは予想外だった。
かき混ぜるまでは成功していたのに、どこから炭へと変貌したのか。記憶喪失かもしれない。都合のいい頭である。
「たべ……たべる」
食べ物を粗末にしてはならない。
いくら炭だろうと捨てるなど。
しかも自分の金で購入したのではなく、泰華の懐から出されている。
ゴミ箱へ、など許されない。
とはいえこれを泰華に渡すような鬼畜の所業など。
幸い、食にこだわりがない月音自身が責任持って、処分すべきだろう。いや、いくら興味が乏しくとも炭は食べないが。いくら美味しいとか不味いがわからなくとも、毒物は口に入れたくないのだが。
試しに、箸でつまむ。が、まず持ち上がらない。
仕方なく小さく取り分けようとしたが、そもそも箸が刺さらない。
「食べれる食べれる食べれる」
もはや暗示をかけるしか道はない。
冷や汗が頬を伝い、ごくりと生唾を呑み込む。
ぐっと目を閉じて勢いよくかじりつこうと口を開いて。
軽快な音楽が鳴り響いた。
月音の緊張を切り裂き、動きを止めるのには十分な音。
最初のコメントを投稿しよう!