22.恩返しにはほど遠く

2/4
80人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
 が、それを上回る自分の腕前。不器用さは予想外だった。  かき混ぜるまでは成功していたのに、どこから炭へと変貌したのか。記憶喪失かもしれない。都合のいい頭である。 「たべ……たべる」  食べ物を粗末にしてはならない。  いくら炭だろうと捨てるなど。  しかも自分の金で購入したのではなく、泰華の懐から出されている。  ゴミ箱へ、など許されない。  とはいえこれを泰華に渡すような鬼畜の所業など。  幸い、食にこだわりがない月音自身が責任持って、処分すべきだろう。いや、いくら興味が乏しくとも炭は食べないが。いくら美味しいとか不味いがわからなくとも、毒物は口に入れたくないのだが。  試しに、箸でつまむ。が、まず持ち上がらない。  仕方なく小さく取り分けようとしたが、そもそも箸が刺さらない。 「食べれる食べれる食べれる」  もはや暗示をかけるしか道はない。  冷や汗が頬を伝い、ごくりと生唾を呑み込む。  ぐっと目を閉じて勢いよくかじりつこうと口を開いて。  軽快な音楽が鳴り響いた。  月音の緊張を切り裂き、動きを止めるのには十分な音。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!