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そこまで考えて、失敗と無断使用のしわ寄せは全部彼に向かうのだと、ますます後悔が募る。
恩を仇で返すとはこのことである。
「申し訳ございません。卵を無駄に使用してしまいました。本当にごめんなさい。お手数ですが卵の購入をよろしくお願いします」
たったそれだけを五分かけて送信した。
返信など恐ろしくて見たくないが、逃げても仕方ない。
じっと死刑宣告を待つと、数秒でメッセージが現れた。
は、早い。
「りょういしたのか!」
誤字から動揺と怒りがひしひしと伝わる。
どうしよう。
いやもはや手のつけようがないところまで来ている。
できるのは真摯に謝るだけである。
泰華が目の前にいないのに、そっとその場で正座をした。
「すみません、しました。失敗しました。すみません」
「怪我は?」
「してません」
泰華は、月音より月音の不器用さを知っているのかもしれない。怪我はかろうじてない。危うく火傷をしそうになったが、どうにか避けれた。
「何故料理を?」
「たまには私が作ろうと思ったんです。いつも任せっきりでしたから」
お礼がしたくて。喜んで貰いたくて。
最後に付け加えかけた言葉を、そっと消す。
文面の恥ずかしさに堪えきれなくなった。
「手料理を食べられるってことか」
なんでそうなった。
失敗って言っただろう、と唇を噛み締める。
あれを泰華に差し出す勇気などあるはずもない。
銃を突きつけられても、おかしくない。
「だめです、むりです、しにたくないです」
「料理しただけで殺される可能性が出るって何事だ」
ごもっともである。
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