88人が本棚に入れています
本棚に追加
24.月は色鮮やかな華を手放せない
「さみしいか」
唐突の問いかけに口ごもる。喉に引っかかったのは、どんな意味を持つ言葉だったのだろうか。わからない。
無力に口を閉ざせば、それ以上は追求されなかった。
その代わり、泰華は横の椅子に置いておいた白い箱を持ち上げて立ち上がる。
そっと手渡されたのは、月音が両手で抱えられるほどの大きさだ。軽く、大きささえなければ片手で持てる。
なんだ、と首を傾げれば開けるように促される。
きれいな薄ピンクのリボンを解いて蓋を外す。
のぞき込めば。
「くまさん?」
ふさふさな薄茶の毛。くりくりとした黒の瞳。愛らしく笑う口元。短い手足とふっくらとした体。
首元には真っ赤な薔薇色のリボンをつけている。リボンには丸い赤い石がついたブローチがあしらわれていた。
かわいい。
人生でぬいぐるみに興味を持ったことがなく、施設でも他の子が触っているのを眺めていただけだが、いざ手元に来ると案外触れたくなる。
そっと手を伸ばして、抱き上げた。
柔らかいくまは、朗らかに月音へ微笑んでいた。
「手料理のお礼。是非もらってくれ」
「えっ、そんな」
最初のコメントを投稿しよう!