24.月は色鮮やかな華を手放せない

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 あの炭に対して、ぬいぐるみ。くまが可哀想になるほど釣り合っていない。  断ろうとしたが、彼はかぶせるように口を開いた。 「日中、一人でいるのは寂しいだろう。かわいい友達だと思って大事にしてやってくれ」  さみしく、ない。  そう突っぱねたい。なのに何も出てこない。  ぬいぐるみは手に吸い付くようになじんでいる。 「おれは、寂しいよ」  付け加えられたのは、存外切なげで不安になる。  見つめていた瞳が、ゆらりと揺らいだ。  月音は考えあぐねて、どうにか絞り出した声。震えていて頼りなさげだった。 「これも『色』?」 「ああ、そうだよ」  彼も同じく、くまの頭を撫でてから膝をつく。  椅子に座った月音と目線を合わせた。 「人はね、弱い。独りで生きていくなんて不可能なんだ」  経験でもあるのか。  彼の言葉には深みがあり、重みが含まれていた。  耳朶を打って心の底へと積もっていく。 「独り立ち、というが、実際は周りの人間に支えられている。食材を作る人間がいなければ満足な食事は作れない。弱り切ったとき、頼れる人間がいなければ壊れてしまう」  流れるように、しかししっかりとした思いがしみこんだ。
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