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あの炭に対して、ぬいぐるみ。くまが可哀想になるほど釣り合っていない。
断ろうとしたが、彼はかぶせるように口を開いた。
「日中、一人でいるのは寂しいだろう。かわいい友達だと思って大事にしてやってくれ」
さみしく、ない。
そう突っぱねたい。なのに何も出てこない。
ぬいぐるみは手に吸い付くようになじんでいる。
「おれは、寂しいよ」
付け加えられたのは、存外切なげで不安になる。
見つめていた瞳が、ゆらりと揺らいだ。
月音は考えあぐねて、どうにか絞り出した声。震えていて頼りなさげだった。
「これも『色』?」
「ああ、そうだよ」
彼も同じく、くまの頭を撫でてから膝をつく。
椅子に座った月音と目線を合わせた。
「人はね、弱い。独りで生きていくなんて不可能なんだ」
経験でもあるのか。
彼の言葉には深みがあり、重みが含まれていた。
耳朶を打って心の底へと積もっていく。
「独り立ち、というが、実際は周りの人間に支えられている。食材を作る人間がいなければ満足な食事は作れない。弱り切ったとき、頼れる人間がいなければ壊れてしまう」
流れるように、しかししっかりとした思いがしみこんだ。
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