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4.月は闇へとふみこむ
「短絡的なのは、いただけないな」
諫める声に肩を揺らした。凶器を後ろ手に隠す。
心を読んだタイミングにますます疑心は膨らむ。天秤がぐらぐらと揺れて、どれが最善かを惑わした。
最善は。取るべきなのは。
月音はおもむろに口を開いて。
同時、男の荒々しい足音が、すぐそばまで近づいた。
ばしゃりと水たまりをはねて、複数が着実に月音を追い詰めに来ている。せき立てられる。
「ほら、迷ってる暇はない。じきに来るだろう、君にも血が流れている、痕跡から辿るのは容易い。ここにいる時間が長ければ長いほどリスクは高まる」
ナイフを握り直し、今しがた排除すべき対象か見定めていた相手は、どこまでも余裕を失わず月音に語りかける。
幼子に言い含めるかのように、ゆったりと。
男は月音を上から下へ、観察する。
傷の深さを確認したのだろう。
ひとつ頷いた。
「その傷からして、捕まれば無事では済まないだろう。最悪――死んでしまうかもな」
びしりと決意にひびが入るのを確かに感じた。
たった一言。
月音が一番危惧しているのを言い当てた。水面に石を投げられ、波紋が広がるように。一気に言葉が体を支配した。
痛みも苦しみもたえられる。
だが死ぬのだけは――絶対にだめだ。
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