24.月は色鮮やかな華を手放せない

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   翌日。    彼はかわりなく朝の支度を終えると、名残惜しげに玄関で立ち止まる。  見送りに来た月音と向き合って、気だるげに息をついた。あからさまに行きたくないと訴えているが、月音にはどうしようもない。 「いってきます」 「いってらっしゃい」  恒例の挨拶に、月音が小さく頷けば、彼はなぜか石のように固まった。  大きく目を見開く顔は、今まで見たこともない色に染まっている。いつも飄々と艶やかな笑みをたたえている、余裕を崩さない男。それが月音の知る泰華だ。  何を驚いているのか。    一拍、おいてから。  泰華はゆるりと顔をほころばせた。やわらかな瞳が、とろりと蕩けるよう。 「いいものだな」 「な、にが?」 「見送りと、出迎えがある。それだけで、ここまで幸せになれるとは思わなかった」  本当にうれしそうに、まるで幼い子供のような無邪気さが月音の目に飛び込んだ。  何度か瞬いて思考を巡らせる。
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