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――話してくれて、ありがとう。
…なによ。よしてよ。そんなにしんみりされたら、あたしの方が引いてしまうし。いいよ。忘れて。アタマのいかれた、無残な酔っ払いのひとりごと。あたしがいつか、ここから消えて。あんたがまだ、もしここに残っていたりしたら。
そしたらあんたは、あのとき、あの夜、ここにシルクとかいう、底なしのバカな女がひとりいたなと。ちょっぴり意識の隅で思い出す。その程度のものだね。その程度の話だ。だめだね。あたしはやっぱり今夜は酔ってるよ――
シルク、
わたしは言って、ひとつのアクションを起動する。
わたしは起立し、数歩歩行し、そこに座るシルクの両肩に手をまわす。
なによ? なんであんたがあたしを抱くのよ?
驚いた眼が、わたしの肩越しに、おそらく後方のダミークリスタルタイルの壁面を見ている。
わからない。わたしのシステムが、それが必要と言っている。
必要って何? 意味わからないよ?
シルク、
何?
わたしは、おそらく、ラブドールの基本機能として、
何?
誰かによりそうよう、設計されている。それが男でも、女でも。おそらくそれが、今このアクションを起動させた理由です
なんで敬語よ? あんたちょっと、おかしいよ??
シルク。特にこれ以上、何かはしません。しかし、
しかし、もうしばらく。ここで。あなたの肩を。このまま保持していて、いいでしょうか。いいえ。もう少し、あなたとこうして。あなたの体温を、ここで感じていたい。シルク、あなたは――
なに、あんた? ぶっこわれたの?? いきなりレズっ子機能発動とか??
そうではない、とわたしは言った。
そうではないの。これは。ひとつの存在と、ひとつの存在と。
意図せず世界に産み出された、あなたとわたしが。
いまここで。おたがいの存在を。近くでこうして感じ合う。
よくは本当にはわからない。分析できない。でも、
けれど。きっとこれが、ここでは必要。
わたしは、ひとつの存在として。あるいはひとつのラブドールとして。
同じくひとつの存在である、シルク、あなたが。
わたしは今夜、あなたがとても好きだと思った。
ただそれだけです。それだけなの。だから。こうして。もう少し、
あなたの体に触れていたい。あなたをここに感じていたい。
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