サイバーパンク・プラネット

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『おまえ、感情うすいよな。もっと声出すとかなんかして喜ばせろっていうんだ。こっちは金払ってるんだ。できそこないの機械女め。』  客の男の中には、そう言って激しく殴打を繰り返す者も、けっして少数派とは言えなかった。なにしろ下級のサイバーインだ。客筋もけっして良くはない。  しかし。感情うすいと言われても。もともとわたしはそのような設計だ。  過剰な発声や、規定以上の過剰なボディリアクションは制限されている。もし仮にそういう過剰アクションが誤って起動した場合、本来のボディ出力の設計ポテンシャルを考えれば、そういった男たちの骨格を破壊・変形させる程度のオートアクションは十分に起こりうる。それを見越しての、安全上のリアクション制限なのだが。ドラッグとアルコールで目を血走らせた理性のない夜の男たちには、そういったロジックはもとより通じない。  だからわたしは、ただ、おそらくそれほど感情がこもっているとも見えないだろう、このわたしのファインシリコンの薄水色の瞳で。ただじっと、男たちを見返すこと。見上げることしかできないでいた。それでさらに逆上する男たちもいた。『そんな目でこっちを見るんじゃねぇ!』と。でも逆に、とつぜんひるんで、それ以後無口になる男たちもいた。わたしの瞳のどのような要素が、そこで男たちを黙らせたのか。それはわたしもわからない。人間の男たちの酩酊時の心理反応を、わたしもときには、分析しきれない。
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