サイバーパンク・プラネット

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「ねえねえ、あんたも夢とか、見たりはするの? 機械なりに? ラブドールなりに?」  ゲディスピア戦勝記念日の二日後の未明、客足がぱたりと途絶えて外では降雨も観測されはじめたその時間に。とつぜんシルクはそんな言葉をこちらに投げた。開封してから相当たって、酸化が進んで味の劣化が始まっているに違いない、エッド産のブラッドシェリーをボトルそのまま口にしながら。  夢、の定義がわからない。それは、夜に見る夢? それとも、人生の目標や展望に相当するものを言っているの?  わたしが言葉を返すと、彼女はわたしの目からは「美しい」と認められるシルクカラーの長い髪をゆすって、それから眠たげに片目をひらき、どっちでもいいわ、と言った。  どっちでもいい。あんたが選んで。  で? 見るの、夢? あんたなりに?  わたしは少し思考して、それから答えた。  ひとつめの意味ならば、見る。  それはランダムなメモリーイメージの累積で。わたしのメモリーシステムがスリープ中に音声記憶とビジュアル記憶をアーカイブ化していく作業をしている。そのときもわたしの自意識はそこにある。そしてわたしはそこを流れていく多数のイメージや音声をすべて見る。すべて聴く。  おそらく人は、それを夢と呼ぶのではないかしら。そういう意味では、わたしも人間なみに、夢を見る。毎晩、未明のきまった時刻にね。  彼女はその一つ目の答えに、あまり満足できない様子だった。  シルバー塗装の安価なビジアドメタルのスツールから乱暴に立ち上がり、ふふん、と小さく鼻を鳴らしただけだ。
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