サイバーパンク・プラネット

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――で? もうひとつの夢は?  あんたも少しは、夢を見る?  彼女はブラインドのおりた劣化の激しいウィンドウの、メンテナンス不良で破断したままの1つのブラインドの隙間から、外の景色をひとりで見ている。わたしの方にはまったく視線を向けないで。  未明の待機室に流れるかすかな音と光線の揺らぎから、窓の外では準2級物流ハイウェイを際限なく流れてゆく自動走行トラックの列が、この時刻にも変わらず見えている、はずだ。わたし自身はいまそれを見ていない。しかしわたしのメモリーアーカイブの中に、この時刻の外景パターンは無数といってよいほど蓄えられている。わたしはその中から春期のマイルドな降水パターンにフォーカスし、彼女がいまそこで見ているであろう、未明の都市の暗い景色にわたしの意識を同調させた。  答える前に、あなたに訊きたい。  わたしの声帯から、その質問が流れ出す。  意外そうに、シルクがこちらをふりかえる。  何? あんた今、なんて言ったの?  答える前に、あなたにわたしが質問したい。  あなたは、どう?  あなたは今でも、夢見てる?  一瞬、彼女の両目が見開かれ。それから両目が静かに閉じて。  彼女が肩をふるわせて。く、く、く、と。押し殺した声をその場に発した。それはおそらく笑い声、の範疇だとわたしはその場で理解した。  しかしわたしは、少したしかに驚いた。2年と少し、この都市の場末のサイバーインの片隅で。彼女と仕事を共にしてきたけれど。このパターンの笑いを聴くのは、今夜がはじめて。だからわたしは、その笑いが意図する彼女の気持ちが。ポジティブなものか。そうでないのか。瞬時に判断ができないでいた。わたしは彼女の顔をまっすぐ見返した。首の角度を、わずかに2度ほど傾けて。
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