サイバーパンク・プラネット

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 それであたしも思い出す。  知ってる、そいつ。  今じゃもう、古代や神話の時代とおなじ、  とっくに忘れたポストプレップ時代の同期の男だ。  名前はもう、でも、今じゃ忘れたけど。  そいつのクシャクシャした海藻みたいなダークな髪とか。  そいつの声―― 不思議と何だか心が落ち着く、そいつの声が。  あたしの記憶を揺り起こす。  あんた。なんで、こんなとこまで来ちゃったの。  あんたは、こんなとこまで落ちてきちゃダメだから。  ここは世界の底なのよ。  あんたは、こんなとこ、来るタイプじゃないでしょう。  来ちゃダメだ、こんな街。  ここはヤバいよ。ここは底だよ。  あんはここには―― 来てはいけないはずなのに。  じゃ、やっぱり―― 本当におまえは、おまえなのか…?  そうよ。あたしよ。本物よ。  まあでも、できたら、あんたに、ここでのあたしは見せたくなかったな。あんたも見たくは、なかったでしょう。あんたは記憶の街にいて。あんたは外の、外のどこかで。ずっと空見て、飛んでいてほしかった。あたしのことなんか、全部忘れて。明るい空気を吸っている。そのはずでしょう。なんできちゃったのよ? なんであんたが?  ……。  そいつはあたしの名前を呼んで、  あたしをふたつの腕で抱き寄せて。  そのまま、あれさ。ぎゅっとね。ぎゅっと。ただそこで。腕の中で抱いている。そいつの荒いアルコール交じりの息遣いと。あたしの、自分の胸の音とが。外を降る雨の音とシンクロして、ずっとそこの暗がりの中で、ひたすら響いているんだよ。その時間。その時間。  それはたぶん、永遠だ。それがたぶん永遠だ。そこで世界は止まれ。そこであたしの命は終われ。そこで全部が終わっていいんだ。
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