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「吉川くん、今野さんの結婚式だけどさ。待ち合わせて一緒に行かない?」
「あ、はい! わかりました」
今朝職場で渡された招待状は、とっくにバッグの中。視界からは完全に遮断されてるのに、つい意識が持って行かれてしまう。
そこへたまたま声を掛けて来た彼。私が教育係を受け持ってた新入社員で、学歴は立派だし仕事もできないわけじゃないのに今一つぼんやりしたとこのあるちょっと可愛い子。
これが最初の分かれ道になったの。結果的にはね。
もうすぐ結婚する同僚の式だった。三年も付き合った何の後ろ盾もない女なんか、たった一言で良心の呵責を感じることもなく捨てられる男の。
逆玉だもんね。そりゃ、なりふり構ってられないよね。
奥様になったお嬢さんは知ってるの? アンタがそんなろくでもない奴だってこと。
同僚だから、式にも披露宴にも出席しないわけにはいかなかった。
……ううん、どうしても嫌なら欠席できなかったわけじゃない。向こうは来て欲しくなかっただろうし。順に招待状を配りながらも、私に向ける笑顔だけが引き攣ってたことも見て見ぬ振りしてあげたわ。
でもその姿に、絶対出たくなっただけよ。
当日、私の存在に冷や汗垂らしてるだろう男を内心で嘲笑ってやりたかった。バラしたりなんてするわけないのに。私にだってプライドってもんがあるんだから。
咄嗟に後輩を誘ってしまった後で考えた。いざその場で取り乱したりしないように、ちょっとズレてて手のかかる彼のお守りをしてれば気も紛れるんじゃないか、なんて計算も否定しない。
関係ない吉川くんを巻き込んで利用することになるのは申し訳なく感じてたわ。その分何か奢って埋め合わせしないとね、なんて思い巡らせてた。
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