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彼女、逢坂 百合とは大学の同級生だった。
ただし、大学のときからずっとそういう関係だったわけではない。偶然、隣接する市の私立校の教員になって、国語教育の研究会で再会したのが交際の切っ掛けだった。
俺は共学高校、彼女は女子中高一貫校高等部の、共に国語教諭をしている。
当時、卒業して五年目だったが、百合はスーツ姿以外は学生時代とまったく変わっていなかった。
ぺたんこ靴でも俺より背が高く、一応ノーメイクではない程度の化粧、髪は染めても巻いてもいないポニーテール。……ポニーテール、でいいのか俺には正直わからないが、とりあえず後ろでひとつに束ねていた。ちなみに、今は短くしている。
おそらくは俺も、たいして変わっていなかったんだろう。目が合った瞬間、自然に呼び合っていた。さすがに名前ではなく「高橋くん」「逢坂さん」だったけど。
その日は出席者の懇親会があり、少し話はできたんだが。……とても足りなくて、また会いたい、もっとこの人と話したい、と強く思った。
彼女も同じだった、のが俺には何故か伝わったんだ。
──きっと、あれは運命だった。他人から見たらごく些細な、くだらないことかもしれないけれど。
連絡先を交換して別れ、翌日にはもう次の誘いを掛けていた。でも、実際に会えたのは十日は後だったな。
その後すぐに付き合い出して六、七年になる。学生時代の『夢』を叶えたはいいが、現実と理想との差に苦悩する日々。彼女とは悩みも希望も分かち合える同士として、一本の道を歩んできた。ずっと。
俺も百合も、もう三十代半ばだ。結婚するなら、彼女しかいないと今も思っている。
ただ、やはり仕事が忙しくてプライベートはどうしても後回しになってしまっていた。
「結婚は勢いよ! いやまあ、勢いだけじゃだめだけど、でも勢いがないとできないのよ!」
同じ学校の先輩女性教諭の熱弁を、今更のように実感する。彼女は二十代で結婚したそうで、四十目前の今は二人の小学生の母だ。
……飲みの席で、なんでそんな話になったのかは全然覚えちゃいないんだけど。
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