この道の先は

2/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 彼女、逢坂(おうさか) 百合とは大学の同級生だった。  ただし、大学のときからずっとそういう関係だったわけではない。偶然、隣接する市の私立校の教員になって、国語教育の研究会で再会したのが交際の切っ掛けだった。  俺は共学高校、彼女は女子中高一貫校高等部の、共に国語教諭をしている。  当時、卒業して五年目だったが、百合はスーツ姿以外は学生時代とまったく変わっていなかった。  ぺたんこ靴でも俺より背が高く、一応ノーメイクではない程度の化粧、髪は染めても巻いてもいないポニーテール。……ポニーテール、でいいのか俺には正直わからないが、とりあえず後ろでひとつに束ねていた。ちなみに、今は短くしている。  おそらくは俺も、たいして変わっていなかったんだろう。目が合った瞬間、自然に呼び合っていた。さすがに名前ではなく「高橋(たかはし)くん」「逢坂さん」だったけど。  その日は出席者の懇親会があり、少し話はできたんだが。……とても足りなくて、また会いたい、もっとこの人と話したい、と強く思った。  彼女も同じだった、のが俺には何故か伝わったんだ。  ──きっと、あれは運命だった。他人から見たらごく些細な、くだらないことかもしれないけれど。  連絡先を交換して別れ、翌日にはもう次の誘いを掛けていた。でも、実際に会えたのは十日は後だったな。  その後すぐに付き合い出して六、七年になる。学生時代の『夢』を叶えたはいいが、現実と理想との差に苦悩する日々。彼女とは悩みも希望も分かち合える同士として、一本の道を歩んできた。ずっと。  俺も百合も、もう三十代半ばだ。結婚するなら、彼女しかいないと今も思っている。  ただ、やはり仕事が忙しくてプライベートはどうしても後回しになってしまっていた。 「結婚は勢いよ! いやまあ、勢いだけじゃだめだけど、でも勢いがないとできないのよ!」  同じ学校の先輩女性教諭の熱弁を、今更のように実感する。彼女は二十代で結婚したそうで、四十目前の今は二人の小学生の母だ。  ……飲みの席で、なんでそんな話になったのかは全然覚えちゃいないんだけど。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!