それぞれの夏休み

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それぞれの夏休み

三日、部屋にこもっていた千景は「こんな私は、私じゃない。 どんな事が有っても、直ぐに切り替えて、前を向くのが私じゃない」と 自分に、言い聞かせる、そして、元気になれる所へ行こうと ニューヨークへ行く事にした。 一度訪れた事が有ったが、ニューヨークの街の、溢れる熱気 バイタリティーの塊みたいな人々に、圧倒されたっけ。 そうだ、あそこだ、あそこなら、直ぐに元気になれる。 千景は、直ぐにチケットを取り、ニューヨークへ旅立った。 思った通りだった、千景の悩みなんか、悩みでも何でも無いよと その街は、綺麗に吹き飛ばしてくれた。 すっかり元気になった千景は、多種多様な人々が着ている ファッションを、熱心に見て歩く。 「凄いわ、あんな着こなし方も有るのね」もう、夢中だった。 すると、いきなり雨が降りだして来た「うわ~っ」雨宿りする為に 駆けこんだ、建物の陰に、一緒に駆けこんで来た男性を見て 「あ、貴方は明紀の、、」と、思わず口にする。 「え?明紀さんをご存じ?」それは、湊だった。 「はい、私、明紀と同学年で、体育祭の時、貴方を見ました」 「ああ、あの時の、、」そう言っている間にも、雨脚は強くなる。 「雨が止むまで、そこのカフェでも行きませんか?」湊が、そう誘う。 明紀の同学年だと言う人を、雨でびしょびしょにさせたくは無かった。 「良いですね、行きましょう」千景も、直ぐに賛成する。 席に落ち着いた所で「観光ですか?」と、湊が聞く。 「いいえ、失恋旅行なんです」千景は、屈託の無い声で言う。 「ええっ、とても、そんな風には見えませんが」 「あはは、私、切り替えが早いのが取り柄なんです、それに、始めから なんか違うな~と感じていましたし、、、」 「貴女みたいな美人を振るなんて、私には、考えられませんね~」 湊は、自分でも驚くような言葉を言った。 近藤も長峰も居ない、ニューヨークと言う自由な街に一人。 何だか、違う自分になれた様な気がしていた。 「有難う、私は、千景って言います、貴方は?」 「私は、湊です、家の仕事の為に、市場調査と言う名目で来ていますが 貴女と同じ、失恋旅行です」湊は、自嘲気味な笑いを浮かべる。 「ええっ、失恋って、、まさか、明紀と?」「ええ」 「そんな、、、明紀と旅行もしましたが、そんな影は、無かったのに」 「きっと、陸君が、支えになったのでしょう」「陸が、、、」 それは、大いにあり得ると、千景も思う。 そして今、陸の名前を聞くのは、まだ辛かった。 「どうかしましたか?」「、、御免なさい、私の失恋相手、陸なんです」 「ええっ」湊は、驚いた後「良かったら、その事、全部話して下さい。 心に溜まっている物も、吐き出せて、すっきりしますよ」と言った。 「有難う、じゃ、聞いて下さいます?」千景は、全ての事を話す。 そして「湊さんが言った通りですね、気持ちが、すっきりしました」と言い 「今度は、湊さんの番ですよ」と、湊にも、失恋の経過を話させる。 湊は、明紀とは、付き合えなかったと言う理由を話した。 「ええっ、お母様が三人?しかも、すっごく手強いですって?」 千景は、目を輝かせて「じゃ、毎日三人と、丁々発止の戦いって事? 楽しそう!!」と、言う。 「楽しそうって、、」湊は、思いがけない言葉に、目を白黒させる。 「どんな事を言って来たって、私なら、打ち返す自信が有るわ。 だって、私の方が、う~んと若いんですもの」と、全く意に介さない千景に 「それだけじゃ無いんです」湊は、自分が暴走族の総長だという事も話す。 だが、それにも千景は「良いですね~皆さんの制服、私が デザインしてあげたいわ」と、持っていたノートに さらさらと、デザイン画を描き「これなんか、どう?」と、見せる。 長いマフラーを靡かせている、アニメに出て来るような姿だった。 「素敵ですが、長いマフラーは、バイクには危険かと、、」 「じゃ、バイクに乗る時は、こんな風に」と、また描いた絵を見せる。 「なるほど、皆と、よく相談します」湊は、クーラーが効いている筈なのに 額に滲んで来た汗を拭いた。 暴走族の総長だと聞いて、明紀は考えを変え、別れを受け入れた。 だが、この千景は、その事も三婆にも、始めから動揺もしない。 それどころか、受けて立つと言う。 「いったい、どんな人なのだろう」そう思った時点で 湊の心は、大きく千景に傾いていた。 だから「ねぇ湊さん、失恋者同士、仲良くしません?」 と言う、千景の提案に「良いですね」と、答えてしまった。
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