るるとして絶えず

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 うまくいく予感で華やぎ、亜希子はつい、先を急いでしまった。するとちょうど倉庫から出てきた人物と鉢合わせしてしまったのである。驚きのあまり、足はその場に接着されてしまったかのようにまったく動かなかった。雨がっぱを身にまとった相手の顔をまじまじと凝視した亜希子は、脱力しながら問いかけた。 「お父さん……、なにしてるの?」  父は亜希子を祖母の家に預けたきり、めったに姿を現さない。普段はどこで生活しているのか、なんの仕事をしているのか、家族の誰にも打ち明けず、気が向いた時にふらっと立ち寄っては、外国の珍しい洋菓子やキャンディ、洋書を亜希子のために置いていくのだった。  亜希子の記憶が正しければ三ヶ月ぶりの再会になるはずだったけれど、うれしさよりも困惑が先立った。というのも父の両手には、亡くなった母の形見でもある古い本が何冊も抱えられていたからだ。  問いかけに応じない父にじれったさを覚えた亜希子は、とがめる口調で父を制した。
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