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父は、私が6歳の時に亡くなった。癌だったそうだ。私の小学校の入学式まで、生き永らえることは出来なかった。
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父の最期の日、私はまだ使っていない新品のランドセルを持っていくよう母に言われ、遊ぶための材料を入れて病院へ向かった。
私はいつも病床の父を相手に遊んでいた。あの日もいつもと変わらず、私と父のおままごとは始まった。
「じゃあ、きょうは、
パーパがすきなもの、ぜんぶね。
パーパ、たまご、すきだから、
めだまやき、あとハンバーグ!」
周りから、啜り泣くような声が聞こえたが、私は気にせず、ピカピカのランドセルから、折り紙やセロハンテープを出した。
ただただ父の元気な姿を見たくて。
私が作った料理が、父を元気にさせると信じて。
「きょうは、目玉焼き……ハンバーグかぁ……。
あーちゃん……、パパ、これからね、……
小さな卵になるんだ。
あーちゃんには、見えないくらい、
小さな、卵……。
いつでも会えるからね……。
見えないけど、居るからね。」
父は、最後の言葉を残して、その後、目を開けてくれることはなかった。
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