06.新たな上司

11/14
292人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
「はい、私が森下です。初めまして、西原さん」  控室に向かうと、スーツをビシッと決めた男の人が立っていた。顔だけは知っていたその人は、私の姿を見つけると眉をひそめる。 「他チームのプロジェクトに顔出すなんて随分暇なんですね。宮間課長から少しテコ入れしたって聞いたから来てみたら、採算の取れないボツ企画の復活ですか。そんなに自分の意見が通らなかったのが気に入りませんでしたか?」  言葉選びは丁寧だけど、見下ろす視線と言い方は高圧的に感じてしまうものだった。一瞬怯みそうになるけど、これは自分だけでなく佐知も関わっている。ここで引くわけにはいかない。 「この短期間で新しいことなんて出来ませんよ。元々客引きのためじゃなく、柿谷さんの作品の良さを伝えるために提案したものでした。ただ見せるより体感してほしいと。ですが今はこれがお客さんの足を止めるきっかけになるんじゃないかと思って取り入れさせて頂きました。効果がなければすぐにでも中止しますので」  控えめに言ってはいるけれど、明らかに初週よりも来客数が多いのは誰が見ても明らかだった。効果は出ていると認めてほしいところだったけど、西原さんもそう簡単には認めてくれなかった。   「地道な宣伝が今実を結んだだけかもしれないでしょう。人が増えたからって自分の手柄だとは言い切れないですよ。あと、鈴本があなた不在のフォローでぐったりしてましたよ。他のチームばっかり見てないで自分のチームも大事にしたほうがいいと思いますけど」  じろりと睨みつけられると心が折れそうになるけれど、ここで弱気になると西原さんの都合のいいように言いくるめられてしまいそうなので、恐怖心を顔に出さないよう口角を上げる。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!