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時間が足りず曖昧にしていた所を突っ込まれ、言葉が出てこない。沈黙を破ったのは『もう終わりましょうか』という議長の言葉。さすがに全てを諦めかけた瞬間だった。
「そんなものは後から何とでもなります。この手の映像をお願いしている業者もいくつかあるはずですし。今はそこまで詰めなくても宜しいんじゃないでしょうか」
後ろから女性の声がした。振り返って声のする方に目をやると、声の主はオブザーバー席に座っている副社長だった。副社長は基本海外を飛び回っているためあまり社内では見かけないけれど、会社を動かしているのは実質副社長なんじゃないかと言われるほどのやり手だと聞いたことがある。
「まあ、社内提案だからいいが外でこんな中途半端なものは出せないぞ」
声を上げたのは営業部長だ。厳しい指摘に私は頭を下げることしかできない。経験不足を痛感してしまう。
「もう時間ですのでここまでにしましょう。では社内で検討して結果は2日後に連絡します」
議長の言葉に副社長は再度口をはさむ。
「審査する人が揃っているんです。今ここで結果を出してしまえばいいんじゃないでしょうか」
副社長の言葉に会議室全体に動揺が走る。
「これは海外研修者が決まる大事なコンペなんだ。じっくり検討すべきではないのかね。大体君は別の仕事で忙しいからと審査を辞退したはず。なぜここに居るんだ」
意見をしたのは社長だった。だけどそんな社長の厳しい声にも副社長は怯んだ様子を一切見せない。
「最近社内で良くない噂を聞いたのよ。コンペが一部の上層部の人に私物化される可能性がある、と。海外研修は私が企画担当するものです。だから公正な審査をされるかを確認させていただきたく急遽予定を調整して参りました。で、審査ですが、ひとまず皆さんのご意見を伺えますか。もし意見が割れるようであれば後日じっくり話し合いにしましょう」
異論が出ないまま1分ほど沈黙が続いたのを確認し、副社長は「では、お願いします」と言って座った。
「で、では最もよかった企画発表だと思う方に手を挙げてください」
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