13.これからの人生

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 とは言え、ちゃんとお礼は言っておかないと。私はお父さんの方に向いて頭を下げた。 「お……昌貴さん、ありがとうございました。おかげで素敵な仕事を頂けました。でもこんな所で私の仕事の話をしてしまってすみませんでした」  さすがにここでお父さん、とは呼べず名前で呼んだんだけど、それすらも見透かされたらしく、お父さんは笑顔で答えた。 「お父さん、でいいよ。こんな所で名前で呼ばれるのは逆に照れくさいからね。私も今回のことで彼と交流が持てた。彼は忙しいし人気のあるシェフだから、簡単なことじゃないんだよ。それに、森下さんの誠実な仕事ぶりも少しだけ見ることが出来た。貴重な機会をありがとう」  彼の存在が私にいいイメージを与えてくれたようだった。思い返せば、柿谷さんとの出会いは陽貴さんが最後に携わった仕事だった。彼は最後までやり遂げることが出来ず、私が引き継ぐことになったんだけど。それが回り回ってこうやって私を助けてくれたことがすごく不思議な感じがした。 「さ、もうお昼になるし、みんなでご飯食べよう。せっかくだから大貴が作ってくれるか? お前の腕前を見てみたいし。母さんと愛理もおいで」  部屋の隅で様子を見ていたお母さんと愛理さんがやってきた。お父さんがあまりにも自然に私に接するので2人共渋々という感じだ。 「森下さん、今回たまたまこの人の機嫌取るようなことしたのかもしれませんけど、陽貴のこと、私達はまだ許していませんから。というか、許せるわけがないんです。本音を言えばもう大貴にも関わってほしくもないくらいです」  厨房にいる大貴くんに聞こえないようにそれだけ言って席についた。まあ、そうだよね……分かってはいたけど冷や汗が止まらない。
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