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もう空気は最悪だった。大貴くんはなんで棚橋さんを呼んだんだろう。意図がわからず何も言えずにいると、口を開いたのは佐知だった。
「叔母さん、今日は陽貴さんのことについて、本当のことを話しに来たんです。まずは美緒の話を聞いてください」
佐知の言葉で、取りあえず全員黙ったまま席についた。棚橋さんはアイスコーヒーを一口飲んでから私に向かって頭を下げた。
「森下さん、私の一方的な思いでたくさん迷惑かけてすみませんでした」
全く予想していなかった一言に、私だけでなくその場にいた全員が固唾を呑んで見守っている。
「私、父から勧められていた政略結婚をどうしても阻止したくて、結婚相手を探していました。そんな私にとって、社長になりたいという願望を持っている陽貴さんは見た目も中身もとても魅力的な人で、結婚相手にはぴったりの人でした。
だから森下さんとお付き合いしていたことも知っていたんですけど、奪い取る形でお付き合いさせていただきました。仕事で評価されている森下さんに女として勝ったという優越感にも浸っていました。
父の力を借りて陽貴さんの実力を上層部の方たちに認めてもらおうとしたんですけど、森下さんに阻止されて、彼はイライラしていました。……いえ、阻止ではないですね。森下さんは自分の仕事を頑張った結果評価されただけで、陽貴さんを困らせるつもりはなかったと聞いています。だけど、陽貴さんは嫉妬から自分達の邪魔したんだ、って怒っていました」
少し間が空いたと思ったら、大貴くんが続きを引き取った。
「そんな兄貴を見て、僕は優希乃さんとちゃんと別れ話もしないまま放置している事に苦言を呈したんだ。そんな風に女性を扱う奴は最低だって。せめてけじめくらいちゃんとつけろって言った。それで兄貴は優希乃さんとケリをつけに行ったんだよ。結果、ちゃんと別れ話をして、優希乃さんと兄貴はお互い言いたいことをぶつけ合った。お互い傷ついたんだと思う。そうだよね、優希乃さん」
私は黙って頷くことしか出来なかった。
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