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そうして暫く続いた沈黙を打ち破ったのは棚橋さんだった。
「森下さんが陽貴さんの弟さんとお付き合いされている、だけどお母様と愛理さんからは嫌われていると聞いて、私のあの時のお母様への助言が、事故の原因を一方的に森下さんに押し付けたことが原因なんだとすぐに気づきました。あの時はあれが正義だと思っていたんですけど、間違っていた。だから、お2人に本当のことを分かってほしくて、本日お邪魔させていただきました。森下さん、本当にごめんなさい」
度々頭を下げられて、どうしていいか分からなくなってしまう。私がなにか言ったほうが良いのかな? と思った時だった。意外にも口を開いたのは大貴くんのお母さんだった。
「事情は分かりました。美緒さん、大貴のためにわざわざ来てくれて、頭を下げてくれてありがとう。元はと言えば、この店を継ぐために陽貴と大貴が対立するような構図を作ってしまったのがいけなかったのよね。負けず嫌いのあの子は弟に負けたことを受け入れたくなくて、トップに立つことばかりに固執するようになってしまった。それがこの悲しい事故を作ってしまったのよね」
お母さんは私の方を向いて頭を下げた。そこにはもう先程の不満げなものは1ミリも残っていない、意を決した表情だった。
「森下さん、今まで辛く当たってごめんなさい。そんな事情があるなんて知らなかったから。陽貴のこと、申し訳なかったです。今は大貴の支えになってるのよね。これからもよろしくおねがいします」
あんなに頑なだったお母さんの謝罪に私のほうが慌ててしまう。
「そんな、やめてください。私にも至らないところはたくさんあって、陽貴さんを傷つけてしまったことは確かですから。でも、陽貴さんのことで傷ついた私を大貴くんは何度も助けてくれました。だから、同じ悲しみを抱えている大貴くんを、私も少しずつ支えられればいいなと思います。……私じゃ力不足かもしれないですけど、お互い支え合うことはできると思うので、どうかよろしくお願いします」
あまりにも急な展開すぎて、ちゃんと話せているかも分からなかったけど、私の思いは伝わった……と思う。
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