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改めて佐知の行動力には驚かされる。事態を把握して的確な行動を取る、根回しの仕方も含めて、私が知っている時よりも格段に成長している。きっと副社長からいい影響を受けているんだろう。
「ありがとう……佐知には本当に助けられてるよ。感謝してもしきれない」
私が泣きそうになっていると、佐知はカラッとした笑顔を向けた。
「何言ってるんですか。私に台湾行き薦めてくれて、副社長に推薦してくれたおかげで、私は今すごく充実してるんです。陽貴さんの下で働きたいっていう目標を失った私に仕事の大変さと楽しさを教えてくれて、あの会社で一番やりがいのある仕事ができそうな人の所に送り込んでもらった、感謝してるのはこっちです。だからこれはその恩返しですよ」
台湾行きを断った私に、他にいい人材が見つからないと嘆いていた副社長。あの時台湾のプロジェクトに興味を持っていた佐知を推薦したものの、自分の身代わりにしてしまった気がして申し訳無くもあったんだけど、佐知にとって良い変化をもたらしたみたいで安心した。
と、そんな話をしている私達の元にお母さんがやって来た。
「森下さん、私達これから陽貴のお墓参りに行こうと思うの。大貴と佐知ちゃんが揃ってるし、今日は月命日だから。告別式のとき参列拒否してしまって申し訳なかったから、せめてお墓にお花を供えてもらえないかしら」
私は「はい、行きたいです」と即答した。まさかお母さんからそんな提案を頂けるなんて。今朝家を出たときには想像もつかない事だった。
途中でお花を買って、陽貴さんの名前が彫り込まれている墓石の周りを全員で綺麗にして、たくさん買ったお花の束から数本を取り出して、順番にお花を供えていく。私の番になり、少し離れた所に置いてある花を取りに行こうとしたら後ろから視界が遮られた。愛理さんが手早くお花の束を作り、私に渡してくれる。
「……ど、どうぞ」
少しずつだけど、愛理さんも距離を詰めようとしてくれているのだろう。その気持ちがとても嬉しくて、私は精一杯の笑顔とともに「ありがとう」の言葉を添えてその花束を受け取った。
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