13.これからの人生

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 翌日、私達は郊外にあるペット用の霊園を訪れ、サクラの祭壇に2人で手を合わせた。 「サクラ、最後看取れなくてごめんな。優希乃さんのこと守ってくれてありがとう。サクラとの出会いが僕に幸せを与えてくれたんだよ。これからはサクラの分まで優希乃さんと楽しく生きていくから、ずっと天国で見守っててね」  大貴くんの言葉に私は泣きそうになるのをこらえた。サクラの遺影を見るのも久しぶりで、懐かしさで胸がいっぱいになる。  私はサクラの供養をしてもらってから、会いに来たのはこれが初めてだった。仕事が忙しかったのもあるけど、やっぱり1人でサクラの遺影に向き合うのは辛かったから。大貴くんが行きたいと申し出てくれたのは有り難かった。  お墓参りが終わったら、そのまま家に戻ってきた。明日には帰ってしまうので、今日はもう家でゆっくりしたかった。大貴くんが荷物を整理している間に私は台所へ向かった。帰る途中、大貴くんからご飯を作って欲しいとお願いをされたから。  帰りにスーパーに立ち寄り、材料を買って帰った。魚が安かったので、大貴くんのリクエストで鯖の味噌煮を作ることにした。得意料理というわけではないけど、何度か作ったことはある。  炊飯器のスイッチを入れて、鯖を煮込んでいる間にひじきの煮物となめこの味噌汁を作る。大貴くんが作ってくれた昨日のお昼ごはんに比べると、なんとも地味なラインナップで申し訳なくなってしまう。 「いい匂いがしてきた。もうできる?」  大貴くんが目を輝かせて台所にやってくる。私が食器を出すと、いそいそとご飯をよそい始めた。テーブルにご飯を並べて、いただきます、の声とともに食べ始める。 「やっぱり、優希乃さんのご飯は美味しいな。イタリアに行く前、最後に作ってくれたご飯も美味しかったよね。イタリアにいる間も、あの味が忘れられなかったんだ」  あれは、大貴くんに会うのが最後になると思って振る舞ったものだった。あの時は絶望の中での食事だったけど、今は自分の料理を嬉しそうに食べているのを見ることで湧き上がる幸せを噛み締めながらの食事になっている。
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