13.これからの人生

22/22
前へ
/159ページ
次へ
「あの時のご飯は良くも悪くも思い出深すぎたよね。あれが最初で最後の優希乃さんの作ってくれた和食なんだなって思ってたから。でも、今こうしてまた食べれることがすごく幸せ。僕和食は作れないから、ここで食べるこの味はすごく貴重なんだ」  ひたすらに私のご飯を美味しいと褒めるので、少し照れくさくなってしまう。 「こんなの大貴くんだってすぐ作れるよ、いつもあんなに美味しいご飯作ってるんだから。私なんて本とか見ながら適当に作ってるから、たいしたことないのよ」  いつの間にか大貴くんはご飯を全部食べ終わって、箸を置いて私の方を見ていた。 「ううん、これは特別だよ。だって優希乃さんが僕のために作ってくれたんでしょ。そんなの他じゃ食べられないよ」 「あ、ありがと。イタリアから帰ってきたらまた作るね。少しでも美味しいものを食べてもらえるように頑張るから。……だから、またイタリアで……頑張ってきてね」  なぜだろう、今までずっと平気だったのに、急にまた大貴くんと離れて生活するんだっていう実感が湧いてきて、淋しさが込み上げてきた。今まで離れているのが普通だったのに、この2日間で濃密な時間を過ごしたからだろうか。目の奥が熱くなってくるのを抑えるのに精一杯だった。  大貴くんは私の側に来てくれて、優しく抱きしめてくれた。 「明日からまた離れるの、淋しい?」  そう聞かれたので、私は素直に「うん、淋しい」と言って頷いた。大貴くんは私の頭を撫でながら耳元で囁いた。 「あと半年、イタリアで頑張ってくる。日本に戻ったら父さんの店で働こうと思ってるんだ。だから、もう少し会えない日が続くけど、待ってて欲しい」  「勿論だよ」私が力強く言うのを確認して、体を離すと鞄から小さな箱を取り出した。 「優希乃さんが僕のこと待っててくれるって信じてるよ。だけど、目に見える保証のようなものが欲しいんだ。だから、これを受け取って欲しい」  箱を開けると、小さいダイヤのついた指輪が収められていた。その意味がわからないほど鈍感ではない。私は溢れ出す涙をそのままに、「ありがとう。嬉しい」と答えた。  大貴くんは箱から取り出した指輪をゆっくりと私の指にはめた。その小さな石は、私の右手の薬指でキラキラと輝いていた。 (完)
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

315人が本棚に入れています
本棚に追加