01.疑惑の始まり

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01.疑惑の始まり

 もうすぐ夏に差し掛かろうかという、軽い蒸し暑さを感じさせる昼下り、私は早めに昼休憩を終えてデスクに戻り、まとめた資料を手にしたまま入口の方に視線を向ける。  しばらくして、昼食を終えて戻ってきた男性を見つけて立ち上がる。最後にさらっと手元の資料を確認してから、デスクについてコーヒーを飲んでいるその人の元へ向かう。 「髙山(たかやま)さん、明日打ち合わせする店舗のインテリアイメージ資料、3パターン作っているので確認お願いします」  資料を受け取って1枚ずつ丁寧に目を通しているのは、先輩の髙山陽貴(はるたか)さん。185cmの長身から繰り出される長い足を軽く組んだ座り方と、資料を読み込む整った顔立ちにいつも見惚れてしまう。  30歳にして企画課のエースである彼は私が新人の頃の教育係で、付き合ってもう2年になる。社内でも憧れる人が多いこの人が自分の彼氏だというのが未だに信じられない。髙山さんは資料をパラパラとめくって言った。 「ありがとう。森下の言っていた通り、このくらいのパターンあったほうがお客さんもイメージつきやすいと思う。だけどそれぞれのパターンを比較しやすいようにメリットとデメリットもう少し分かりやすくまとめてほしいかな。後は問題ないから、修正版を明日の朝までに送っておいて」 「承知しました。今日中に修正してメールで送っておきます」  私はすぐに資料を受け取り、デスクに戻って資料を直し始めた。私が作った資料を元に髙山さんが顧客に説明する、この流れが今では定着している。思ったことを正確に言葉にして伝えるのが苦手で、人前で話すたびにしどろもどろになる私を髙山さんがサポートしてくれたのがきっかけで、今はこの形が定着してきた。
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