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「優希乃、今日は俺用事あるから自分の家に帰る」
「分かった。私もさっきの修正もう少しかかりそうだから、遅くなりそうなの。高山さんに頼まれてたワインの買い出しは今週中にしておくね」
高山さんが声を落としてそっと耳打ちしてきた。仕事外の話をするときだけ私を下の名前で呼んでいるのに対して、私はまだどこか緊張が抜けきれないのか、話し方はだいぶ砕けるようになったけどどうしても苗字呼びからは抜け出せずにいる。だけどこの特別な感じも私は気に入っている。
昔から雑貨が好きで、自分の部屋を何度も模様替えしながら好みの空間を作るのが好きな私にとって、家具やインテリアのマーケティングや空間のデザインをするこの会社で、企画課として主に企業向けのインテリアコーディネートを提案する仕事は大変だけれどやりがいを感じている。
髙山さんと組んで5年、このまま仕事を続けていずれは結婚し、妻として仕事も家庭も支え合っていければいいな、なんて密かに考えている。
「よし、修正終わり」
時計を見ると20時を過ぎていた。修正作業に集中しすぎて思っていた以上に時間がかかってしまい、周りを見渡すと人もまばらになっていた。
「森下、それ終わったか? 遅い時間に悪いんだが、少しだけ時間いいか」
声をかけてきたのは同じ企画課の宮間課長だった。私が肯くと目の前に1枚の紙を差し出した。そこには〈白百合地区 保育所デザインコンペ〉と書かれている。
「社内で開かれるコンペなんだが、森下もやってみないか?」
突然の宮間課長の話に戸惑いを隠しきれない。だって、これ……
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