01.疑惑の始まり

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「もしかして髙山から聞いているか? これは個人で企画書を作ってもらって、一番良い企画の提案をした人には海外研修の特典がある。だから上長推薦が無いと参加できないんだ。今髙山は俺の推薦でこの企画書を作っているはずだ」 「はい、知ってます。けど私に髙山さん以上の企画書なんて作れないですし、そもそも私は海外研修に興味無いです」  仕事は好きだし海外のインテリアも好きだけど、海外で仕事をしたいと思ってはいない。ただでさえ顧客説明に不安があるのに、海外でやっていけるわけがないと思っている。だけど、私の言葉は宮間課長にとっては想定内だったようだ。 「まあ、そう言うな。だとしても、お前最初から最後まで1人でこなしたことないだろ。提案説明は大体髙山がやってるからな。だから、いい経験だと思ってやるだけやってみないか。結果はどうでもいいんだ。森下が1人でどこまでできるかを見てみたいんだよ」  あまり気乗りはしなかったけれど、宮間課長が私の成長のために言ってくれているのは伝わってきた。 「参加するだけでいいなら……やってみます」  宮間課長の提案を受けることにした。髙山さんが出る以上、自分が出たところで結果は変わらないとは思う。だけどこのコンペ次第で髙山さんは海外研修で一定期間日本を離れるかもしれない。  いつまでも髙山さんに頼りっぱなしでいる訳にはいかない、そんな宮間課長の思いを汲み取らなければいけないのはひしひしと伝わってきた。  翌日から、その日の業務終了後に少しずつ企画書作成を始めた。自分の業務に影響が出ないように、が前提なので、残業したり家に持ち帰ったりしながら少しずつ資料作成を進めていた。
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