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「あれ、森下もそれ参加するんだ」
残業して資料を作っていると後ろから声をかけられた。振り返るまでもなく声の主は分かる。
「宮間課長に言われたんです、1人でプレゼンをやることはいい経験になるんじゃないかって。髙山さんはもう終わったんですか?」
「まあね。最後に森下に軽く見てもらおうと思ったけどライバルになるならやめておこうかな」
ライバルだなんて……笑ってそう言おうとした瞬間だった。
「いくら経験つませたいからって結果の分かりきっているコンペに参加させなくてもいいのにな。森下もそんなに暇なわけじゃないしどうせ時間の無駄にしかならないのに」
時間の無駄、その言葉が引っかかった。今私がやってることって無駄なことなの……?
そんな私の憤りに気付かないまま髙山さんは「まあ周りに迷惑かからない程度に頑張れよ」とだけ言って行ってしまった。
「髙山さん、さすが自信満々だね。まあでも、今回のコンペは髙山さんのためのコンペだって言われてるから、当然と言えば当然か」
そう声をかけてきたのは同期の飯田菜々だった。一重で化粧もナチュラルでぱっとしない上に、真っ黒で長い髪をそのままおろしている地味な私と違って、菜々は二重でウェーブのかかった茶色の髪が肩の上でふわっと揺れているカワイイ系の女子。メイクも服も常に最新を押さえている彼女と2人で並んでいると同じ27歳には見られず、先輩後輩に見られることが多い。もちろん私が先輩だ。
菜々は私とは同じ部署だけど別チームだから、普段からそれほど話をするわけではない。だけどこうやってたまに社内で話しかけてくれるたびに社内の噂話を持ってきてくれる。たぶんたくさんの情報網を持っているんだろう。
「髙山さんのためのコンペってどういうこと?」
私の言葉に菜々は待ってましたと言わんばかりに口を開く。
「髙山さん、将来の社長候補な訳でしょ。泊をつけさせるためのコンペで、やる前から勝つのはほぼ決まってるって話よ」
社長候補? 拍を付けさせる? 理解できない言葉が次から次へと飛び出して私の頭は処理が追いつかずにいた。髙山さんが仕事のできる人なのは分かっているけど、言ってもまだ現場のリーダーでしかない。それなのにもうそこまでの評価を得られるものなのだろうか。って言うか、社長候補になるほどの評価受けるような仕事してたっけ……?
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