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状況を理解していない私を見て菜々はそんなことも知らないのかと呆れ顔で話を続けた。
「総務部に去年入社した棚橋さんって子知ってる? あの子社長の娘さんなんだって。髙山さん、最近頻繁にご飯行ってるみたいなのよ。彼女の目にとまったってことでしょ。ウチのエースであの容姿だもん、当然よね。仕事のできる社長の娘婿ともなれば、次期社長も同然でしょ」
全く意味の分からない話だった。そんなこと高山さんから聞いてないし、私彼女だよね? 別れてもいないのに、何でそんな話が出てくるの……?
髙山さんと付き合っていることを知っているはずの菜々が楽しそうに話すのを見ていると、私の反応を面白がっているんじゃないかと疑いたくなってしまう。だけど菜々の気持ちを問いただそうとする前に「気になるなら本人にちゃんと確かめてみれば?」それだけを言い残していなくなってしまった。
翌日、私は定時後に思い切って髙山さんに声をかけてみた。
「ねえ、今日家でご飯食べない? 私作るから」
だけど髙山さんは私の顔も見ずに答える。
「ごめん、今日用事あるから無理かな。優希乃もコンペの資料まだ終わってないんじゃないの? しばらく家に行くのは控えるよ」
(仕事を理由に私と距離置こうとしてない……?)
もう思い切って聞くしかなかった。
「用事って、社長の娘さんとご飯に行く事?」
髙山さんの表情が一瞬険しくなる。が、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「何の話してるんだ? コンペの最終確認とか色々あるんだよ。それに優希乃だって資料作り大変だろ? 期日まであと少ししか無いのにご飯なんて作ってる余裕なんかないだろ。俺は優希乃に無理してほしくないだけだよ」
いつもならそれを髙山さんの優しさだと素直に受け取っていたはずなんだけど、今日はここで引き下がりたくはなかった。
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