315人が本棚に入れています
本棚に追加
「社内で噂になってるよ。コンペは髙山さんのためのコンペで、結果ももう決まってるようなものだって。社長の娘さんと仲良くなって気に入られて、その状況を利用して出世の足がかりにしようとしてるってことなの?」
後から思うと、言い方がキツかったと思う。でも裏切られたかもしれないという気持ちが心の中を占領していて、信じたくなくて、そこまで気遣う余裕を無くしていた。
(お願い、どんなに怒られても構わないから、私の言葉を否定して!)
そんな私の願いはあっという間に打ち砕かれた。
「優希乃に俺の何が分かるんだよ。俺はただ美緒と話してるのが楽しいから一緒にいるだけだよ。それを利用とか言われたくない。嫉妬してるのかもしれないけど、憶測で失礼な事言われるとムカつくわ」
確かに否定はされた……けど私が思っていた、望んでいた否定からは程遠いものだった。
「美緒……って棚橋さんとそんなに仲良くしてるんだね。楽しいから一緒にいるって言ったけど、明らかに私との時間より棚橋さん優先してるよね。もう棚橋さんと付き合ってるってことなの?」
だとしたら私は? ……そう聞く前に高山さんは
「優希乃がそう思うんならそうなんじゃない」
そう言い捨ててその場を立ち去っていってしまった。
それからしばらくの間、私はモヤモヤとした思いを抱えたものの再度確認する度胸も無く、不満を顔に出さないように気をつけながら仕事をこなすので精一杯という日々だった。
髙山さんとは仕事の話はいつも通りにしているけど、ほとんど目が合うこともなく、仕事以外の話は一切できていない。今日も髙山さんは定時後すぐにカバンを持って出ていった。また棚橋さんと会っているんじゃないかと思うと胸が苦しくなる。
「森下、今日暇? 久々に飯でも行かねぇ?」
業務後にコンペの資料を作っていたときに声をかけてきたのは同期の鈴本崇史くんだった。鈴本くんも同じ企画部なのでたまに話をすることはあるけれど、菜々と同じチームだから仕事の接点は少なくて、最近は特にあまり話をすることも無くなっていたので、急にご飯の誘いが来て少し驚いてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!