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「分かってます。明日からは戻るつもりでしたから。でも、今日の感じ見る限りもう私がいなくても大丈夫そうなのでこの後すぐ戻りますね」
それだけ言うと控室を出ていった。ギリギリ笑顔に見えていただろうか。正直なところ、これ以上西原さんとやり合えるだけの度胸は持ち合わせていなかった。逃げるようにブースに戻る私の後を追いかけてきたのは佐知だった。
「ゆ、優希乃さん戻っちゃうんですか?」
佐知は不安そうな表情を浮かべている
「自分の仕事もたまってるからね。そろそろ戻らなきゃとは思っていたの。もう佐知に任せても大丈夫でしょ。あと、一応菜々にも見てくれるよう頼んでおくから。あの子結構接客とクレーム対応は得意だから。苦手かもだけど後輩感出して近づけば優しく接してくれるから。頑張れ」
西原さんの言いなりになっている菜々も、流石に今の状況を見たらどうするのがより良いのかちゃんと判断してくれるはず。私の為じゃなくて佐知の為なら動いてくれると思った。佐知を全力で励ましてから会社へ戻って鈴本くんのところへ行くと、パソコンを前に頭を抱えている。
「あー、そのクライアント、企画書のダメ出し細かいよね」
鈴本くんに声をかけると、驚いた顔で私を見る。
「あれ、向こうはもういいの?」
今日私が戻ってくるとは思っていなかったので苦しい表情を浮かべていたんだと思う。油断したー、と軽くつぶやいていた。
「西原さんがうるさいから戻ってきた。あとは佐知がなんとかしてくれると思う。急に抜けてごめんね、鈴本くんにばっかり負担かけちゃったよね。ここのクライアントの企画書何回か作ったことあるから、私やるよ」
「もしかして俺のこの感じがあいつの嫌味に利用されたか。ごめんな、でも助かった。ここのクライアント俺は初めてで、対応に困ってたんだよ」
そんな話をしながら私は元の仕事に戻った。個展はあと5日。何とか頑張ってくれるといいけど……
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