いきなりやらかした。

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いきなりやらかした。

 「さぁさ。まぁご挨拶がすんだところで。」  ここでの暮らし方・ルールを簡単に説明された紙を大家さんに渡された。  だが私はそれにじっくり目を通して読みふける前に、目の前のミステリアスな同居人とどう距離感を掴んだらいいのか、ひとつ屋根の下に暮らすのだから今後の事が気になってしょうがない。    「えぇっと、そのぬいぐるみ可愛いデスね~。もしかして手作り?」  「……」  なんとなく声をかけてみると、短い歩幅でちょこちょこと近づいてきて来たかと思えば私にその子猫のぬいぐるみを差し出した。  「あ、見せてくれるの?」  手にしてみるとぬいぐるみは首にリボンが付いていて、そのリボンからぬいぐるみの背中には小さなカードがクリップでとめてある。  『お近づきのしるしです。引っ越し祝い、もらってやってください。』  そう書いてあった。  え?引っ越し祝い?私に?まじ?  大家さんが覗き込んでワントーン高い声を上げた。  「まぁ~引っ越し祝い!そっかぁー。ここ数日なんか作ってるかと思ったらそれだったのねー。この子ね、手芸とか小物作るのが好きなのよ~。DIYっての?そういう計画も得意でねぇ。それに料理も好きなのよね?色々やってるのよー。」  女の子、いや小夜子ちゃんだっけ。またなんかモジモジしてるみたい。  ちょっと可愛いぞ。いじらしいってこういう時に使う言葉で合ってるのか?  「ありがとう!わ~凄く嬉しい!引っ越し祝いなんて初めてだし、それもこんなに可愛いぬいぐるみでしかも手作り?スゴ~い!私、ぬいぐるみって作った事ない。器用なんですねぇー。」  「よかったね。喜んでもらえて。」  大家さんもニコニコする。  その場の空気が和んだ、と思ったのは束の間だった。  空気を破った犯人は私だ。  「ホント、可愛い子猫~。ぬいぐるみに名前つけちゃおっかな~。」  シーン。  その場の空気が一瞬にして凍ったのがわかった。  あれ?  「……犬です…。」  えええ?  「作り直してきますっ!」  という言葉と同時に、ぬいぐるみは拉致されたように小夜子ちゃんと同時に目の前から消えてしまった。  あちゃーーー‼やらかしたー‼  
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