口が禍する。

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口が禍する。

 「ごめんなさい!本当にごめん!スイマセン!作り直す必要なんてないから!」  部屋に閉じこもった小夜子ちゃんに届けとドアに向かって訴える。  「ホントに嬉しかったの!引っ越し祝いって初めてだったし!ぬいぐるみ可愛かったのは本気でそう思ったし!本当にそのままでも十分嬉しいから!ホントにそのままで!可愛いから小夜子ちゃんも可愛いから!お願いします、そのままで頂かせて下さい!お願いしますー!」  もはや自分でも何を言っているのかわからない。  『も』ってなんだよ。小夜子ちゃん『も』って。  そんな取ってつけたようなの、何のフォローにもなっとらんわ。しかも小夜子ちゃんも可愛い『から』って何?  『頂かせて下さい』って日本語か?ヤバいよ私、日本語使えねぇ。  何年か前、飲み屋の通り近くにいた謎の占いオバちゃんからいきなり言われた言葉が思い出された。  「あんたのその口元のほくろ。口が(わざわい)するから気を付けた方がいいよ。口は禍の元っていうだろう?思った事直ぐ口にしない。よく言葉を選んで、いや、その前に黙っていた方がいい場合の事だってある。ココをちゃんと冷静にさせなさい。」  そう言って指差した『ココ』は頭だった。占いなんて頼んでもいないのにいきなりである。その後流されて千円払ったような記憶があるけど、酔っていたので半分くらいはもう覚えていない。  確かに私の口元には、ほくろがある。  ほくろはセクシーとかチャームポイントとか言う事もあるし、有名人にあるほくろだってあれがいいんだよって言う人もいたけれど。  口が禍する。今それが当たっていることが再認識された。  確かに深く考えずにポロっと言っちゃったことでマズい展開になった事は過去に何度かあった。そして後悔。なんで私は学べないんだろう。  今、私は新たなその窮地に立たされている。  引っ越し当日にだよ!  大家さん~!  と、目線で助けを求めても苦笑され。  「作り直すっつってんだし、本人が納得するまで(しばら)くそっとしといたら?」  小夜子ちゃんの部屋は、天岩戸のように固く閉ざされているように思えた。いや、これは籠城というべきか?私って敵兵?  ホントに作り直すんだろうか。  せっかくの歓迎のご好意を傷つけてしまった。  絶対めっちゃ泣かしてるよね。部屋の中で泣きながら作り直してる姿を想像する。それか作り直すのを放棄して変な事になったら…どうしよう。    私はまさか別な意味で「変な事」になっていくなんて、夢にも思わなかった。
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