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混乱
私は混乱していた。
今も目の前で起きていることが受け入れ難い。
ガイコツが、扇風機の前でバスタオルを広げて涼んでいる。
「ふゎ~。肋骨の間に風がすーすー通り過ぎていいわぁ~。」
なんて言ってご満悦の様子。
彼女の簡単な説明によると、死んだと思ったらなぜか骨だけの姿になってそれから数百年?ずっとこの土地を彷徨っているんだとか。過去の記憶はほぼ思い出せず、この古民家に居ついていたところを大家さんに発見され、心の広い大家さんは寛大にもそのまま住まわせてくれているという。
家賃も請求されていないらしい。まぁ払えないか。
大家さん、見えてんの?この状況受け入れてんの?どんな鋼のメンタル?
ガイコツ小夜子ちゃん?は、あの骨格標本のホネくんを持って私に向け、
「私とホネくん、どっちが可愛いと思う?」
と謎の問い掛けをしてくる。
私はその質問に答えず、自分の疑問をぶつけた。
「あの。コスプレ…」
「じゃありません。私シャワー浴びてきたばっかりなんだけど。」
「えっと。俗に言う幽霊とかそーゆう…」
幽霊もお風呂入るのかな?
「かもしんないけど、それだと見える人と見えない人がいると思うんだよねぇ。自分の場合、殆どの人に見えちゃうみたいなんで。隠れてコッソリ生きて…いや死んでるんだか生きてるんだか謎だけど、暮らしてきたっていう感じ?驚かすのアレだし隠れるのも結構大変なんだなコレが。」
「なんか、昼間会った時と随分キャラが違いませんか。」
中身(見た目は空洞だけど)も昼間とは別人のように感じる。
「まぁそう思うよねぇ。それも事情があるんだな。そこも長くなるから徐々に説明するよ。そっちも受け入れてもらえるかどうかってのがあるしー。ホントはこんなに早くこの姿で出るつもりなかったんだけどー。あんたならもしかして大丈夫かなって賭けに出てみたっつーか。」
賭け?無言で問い掛けた顔が通じたらしい。
「えっとねぇ。昼間ざる蕎麦食べてたでしょ。その時このホネ君とジンさんを見ても普通の人より反応が薄かったというか。普通、もっと驚いたり気持ち悪がったりするもんじゃないの?それだけじゃなく蕎麦完食した後、ガン見した末にあちこち触ってまで、じっくり検分してたっしょ。」
「あ、あれは大家さんが触ってもいいって言うから…。」
「ん。あれは第二次審査みたいなもんで。前の美大生は三次審査で逃げてっちゃったんだよねー。あれもちょっと正体明かすの時期尚早だったかなぁ。」
審査があったんですか。聞いてなかった。
「あれ。ちょっと待って。ジンさんとホネ君は美大生が作ったんじゃないの?」
「今のはそうなんだけどー。前にあったのはもう少し大きい奴だったの。壊れて燃やされちゃったんで作り直してくれたのが美大生。」
「燃やされたって、誰に?」
「それはまぁ、またいずれ話すよ。」
まだ再就職先も決まってなくて貯蓄もない私に格安で入居させてくれた理由が朧気ながら見えてきた。これはまだ審査されている途中ってこと?
「まぁトライアル期間中っていうか~。相性ってのもあるし?シェアハウスってのは色々な話も聞くしねぇ。特にウチの場合は特殊なケースだから。」
トライアル…お試し期間ですか…。
「あの、一次審査ってのは。」
「勿論、昼間のシャイな小夜子ちゃんのビジュアル?」
んー。あれは問題なくないか?私はちょっと首をかしげる。
「顔も首も全部ミイラみたく包帯巻いてんだよ?服からも手とか肌は一切見せずにめっちゃ暑苦しいカッコして。横〇正史のス〇キヨみたいなマスクの方がよかったかなー。」
いや、そーゆう問題ではないと思う。
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