再会、はやくない?

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「で、前世の話なんですけど。」 「えっ、僕にピアス開けたのはもう流れるんですか。」 「これはただ傍若無人に振舞ってみたいなって…」  1ミリも反省なんてしてなそうな顔で、先輩はソファーの肘置きに腰掛ける。 「あまりにも被害者……」  幼い子供にでもするような手つきでさらりと髪を撫でられた。会って数時間も経っていない人なのに酷く落ち着くのが少し怖い。 「まぁまぁ、とりあえず言うとここはゲームの中です。」  大人しく撫でられていると、少し理解できないことを言われてしまう。頭を捻って考えてみるが、やはり分からない。 「…本の読み過ぎなのでは、」 「BLノベルゲームです」  情けなく声を上げてしまうと、追い打ちをかけるようにつらつらと話し始めた。 「ついでに言うとこのかわいい明海先輩の中の人は開発陣にいた人でした。そして君は……僕が作った君は当て馬キャラです。バットエンドで死ぬタイプの。」  ほんの少しだけ切なそうな顔ををしつつも、大人っぽい顔で微笑んだ。 「当て馬……って、なんですか?」  如何せん知識がない、BLの存在は知っているが……用語とかは、ちょっと。 「当て馬キャラとは少女マンガでの恋愛を盛り上げてくれる脇役のこと、大体がヒーローに勝てず切ない最期を遂げるキャラクター…ってGoogle先生が言ってました」  スマホを片手に明海先輩はこちらに説明を飛ばすがちょっと……いやかなりわからない。 「ほう…えっと…つまり、?」  ふむ……と眉根を寄せながら、先輩は悩みこんでいる。知識がないばかりに、申し訳ない。 「恋愛成就出来ない確定で失恋するキャラです。」  あ!と声を上げて閃いたような顔をした先輩はわかりやすい端的な説明をして、満足気に笑った。  ちょっとまて、恋愛成就できないということは、前提としてゲームの僕にが出来ているという事になる。 「oh…つまり、えっと、それが僕ってことは一回置いておいて…失恋する相手って、誰なんですか?」  勇気を出して尋ねてみると、明海先輩は訝しげな顔をしながらも素直に口を開く。 「近衛 豊久君です。」 理解できない 「え」  きっと僕は今鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてるのだろう。明海先輩は少し面白そうにもう一度繰り返した。 「近衛 豊久」 僕が、とよひさを。 「このえとよひさ」  理解しようと何度も唾を飲み込もうとするが、喉の底から暑くて飲み込めそうにない。変に汗をかいて、顔が暑くて…… 「真っ赤ですね、リンゴみたい。」  面白いおもちゃを見つけた子供のような顔で、明海先輩がからかってくる。それは、野暮というものでは無いのか? 「ちょっと、さすがに、盲点……」  真っ赤になったままの僕の頬を指でつつきながら、明海先輩はくすくすと笑っている。 「先に言ったら当て馬にならない展開になるかと思ったんですが……噂の強制力ですかね?」  からかっているのか、その顔は実に愉快そうだ。いや、それより…… 「あ、あした……どんな顔をして豊久にあえばいいの……!!!!」
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