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もう会いたくなかったのに。
昔馴染みの幼馴染の、悪友の腐れ縁の、今はもういない巨田に夢で逢う。
「今日は遅かったんじゃない?」
幼少期に住んでいた近所の公園のブランコに佇んでいる巨田がこちらに気が付いて手を振る。大きな体に小さなブランコの椅子がピタリとはまっていた。あれもう抜けないんじゃないのかしら?フード付きの青いパーカーと巨田曰く味のある、有り体にいえばボロボロのデニムパンツを履いている。パーカーは私が着るとワンピースのようなのに、巨田の場合だと裾が足りないくらいになる。
「最近不眠で、カモミールティーを飲んでいるの。」
私はといえば、仕事のスーツ姿だった。紺のジャケットに、紺のタイトスカート。薄手のブラウスに卸したてのベージュのストッキングと5cmヒールのパンプス。本当はもっと高いヒールの靴を履きたいのだけれども会社規定で決められている。こんなところだけ時代錯誤のブッラク規則だと思う。学生時代のほうが高いヒールの靴を履いていた。そうしないと巨田の隣に並んだ時に顔が見れないから。
巨田の隣のブランコに座り、地面を蹴ろうとするがその地面に足が届かない。
「不眠?気が付けば寝ているような小埜寺が?」
「あのころとは違うのよ。」
「そう?」
「そうなのよ。」
「ふーん。」
それから、特に話すこともなく、ただブランコに座っている。私たちのほかに利用者はなく、ブランコのほかに何があるといわれてもそこまでは夢の中だから覚えていなかった。
「ねえ、小埜寺。」
沈黙に耐えかねたとか、そういうのではなく、ただ話しかけたかったから話しかけてきた巨田が口を開く。
「なんで来てくれないの?」
「今来てるじゃん。」
「そうじゃなくて、」
「それ以上も、それ以外もないよ。もちろん、それ以下もね。」
「ずっと、小埜寺に会いたいと思っているのに。」
「私は、」もう会いたくなかった、とは巨田の顔を見ていたら言えなくなった。
ただただ会いたい。それだけの顔。
会えない理由なんて知らない、って顔。
知っちゃっこっちゃない、って顔。
その顔に耐えられなくなり、ブランコを降りる。後ろでガチャリと鎖のぶつかる音がした。
「もう行くね。」
左に座る巨田に右を向いて話す。
「また、会えるよね?」
巨田はブランコに座ったままで、尋ねる。私がそれに答えないでいると、
「また、会えるよね?」と、繰り返し言った。
「また、ね。」
なんとか、お腹から絞り出した声で答えた。
「うん、また。」
そこから数歩も歩き出さないうちに私は目が覚めていた。
昔馴染みの幼馴染の、悪友の腐れ縁の、今はもういない巨田に夢で逢う。
もう夢でしか会えない、大好きな人。
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